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和光市松本市長1

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【和光市長 松本武洋氏:第1話】勉強していると叩かれる子供もいる

【松本武洋氏の経歴】
埼玉県和光市の現職市長。1992年に早稲田大学法学部を卒業。ベンチャーキャピタル、経済出版社、東洋経済新報社に勤務後、2003年の和光市議会議員選挙に立候補して当選し、2007年に2期目の再選を果たす。2009年には和光市長選挙に当選し、現在2期目。

―2016年度、和光市は4年ぶりに地方交付税を受け取らない『地方交付税不交付団体』となった。これは、同年度時点において全国約1700ある自治体のうち、わずか77団体に限られる。出版社時代に培った会計についての豊富な見識を生かして、厳しい目で財政を引き締めながらも、地域に寄り添った行政運営を進める和光市長にお話を伺った。

競争のベースに乗らない人たちがいる

加藤(インタビューアー):今日はよろしくお願い致します。市長に就任される前、議員のお仕事をされている頃から、財政的な問題について深く提言をされていらっしゃいましたが、ここにはどういう思いがあるのでしょうか。
松本市長:そもそも私が地方自治の世界に興味を持つようになったのが、この地域の合併問題なんですね。平成の大合併の流れの中で、合併をすることが財政的に良いのかどうかと侃々諤々の議論があったんです。
 賛成派も反対派もいろんな観点から説明する訳ですが、当時の私は民間企業にいたので、正直、どっちの言い分が正しいのか、本質的にはよく解らなかったんです。ただ、行政のお金の使い方に大きな課題があるということだけは感じました。
 そういうことを振り返ると、今は政治行政側にいる私自身が、自治体の根幹である財政情報を整理して伝えることが大切だと感じています。
加藤:なるほど。実際に議員、市長として行政に関わっていく中で、民間にいる時に思っていたこととはやはり違いはあったのですか?
松本市長:あまりに普通で恐縮なのですが、民間の視点というのは、要するに『利益』の視点、赤字か黒字かという視点ですよね。それはあくまで世の中の一部の世界における視点です。
 私が民間人として一番見えていなかったことは、競争社会と言われる現代において、そもそも、その競争のベースに乗らない人たちがいるということだったんです。もちろん、民間人の時も理屈では解っているんですけど、周りにそういう人が多くいるわけではないのでリアルにイメージできないわけですよね。

役所が人の人生を好転させるきっかけを作る

松本市長:例えば、役所の仕事の一つに詐欺のようなものから市民を守る、消費者保護の仕事があるんですが、これだけの人が世の中にいると、どうしても騙されて困っている人が出てしまうんですよね。これはいくら役所から啓蒙してもゼロにはならないんです。いろんな人がいますからね。
 そこを、本人の責任として全て自己解決してもらうというのは無理な話で、そういう「大変な思いをしている人をいかにサポートするか」というのは、最終的には行政がやらないといけない。
 そして、そういうサポートによって、ある人の人生が好転するきっかけになるというのも、役所に入らないと見えない世界でした。そこには『利益』とか『効率』という視点ではなく、どうしても掛けざるを得ないコストがあります。
 そういったことも含めて行政の『お金の使い方』や『成果』というのを判断することは非常に難しく、最初に議員になった時からずっと悩み続けていて、まだ結論が出ない悩みです。

勉強していると親から叩かれる子供もいる

加藤:和光市は、東京メトロ副都心線の開業などにより、都心からのアクセスも良く、人口が増加しています。現在、注力しているのは特にどういった分野でしょうか。
松本市長:どういうご家庭で育ったお子さんでも、社会で生きていくために必要な生きる力や学力を身につけてもらうことです。たとえば、保育園などは量的に充足させるだけでなく、質を高め、義務教育との連携を強化しています。ちなみに、2017年4月にも新しく保育園がオープンする予定です。8年前の就任時に21億円だった保育園費ですが、新年度予算では35億円程度を予定しています。

松本市長 教育

教育に力を入れ、実行していく松本市長

松本市長:人間は大人になってからだと変わりにくいので、昨今は就学前教育への投資が重要であると言われています。そこで、保育の質を高めるために、保育士の研修内容もガラっと変えています。いかに学齢期に入る前に基礎的な力をつけるか、例えば『考える力』『生活に必要なお金を稼ぐ力』『人間関係を作る力』をつけるのが課題で、それによって、先ほどの騙されてしまうような人も減らすことができるのではないかと思っています。
 信じられない話ですけど、勉強していると親から叩かれる子供もいますからね。そういうご家庭のお子さんでも、就学前の段階でしっかりと基礎を作り、生きる力を身につけてもらえれば、20年、30年経った時に、世の中がガラっと変わってくると思うんです。
加藤:それを、それぞれの自治体でやるというのは本当に大変なことですね。
松本市長:もちろん、我々は小さな町だからフットワークはいいです。ただ、究極的には一自治体が全部やり切れるものではありません。「ある程度軌道に乗れば、全国的に取り組んでいただけるようになるのではないか」と期待しています。
 少し横道にそれるのですが、和光市では、教育委員会とともに塾に行く経済的な余裕のないご家庭のお子さん向けに無料の塾を始めて3年目になります。これまで塾に通った中学3年生は、県立高校に全員合格しています。これは、「高校まで卒業してもらうことで、貧困の連鎖を断ち切ることができるのではないか」という思いから実施しているものです。
ふるさと納税を活用した、医療や福祉の専門職を目指す方への独自の奨学金も始めました。一自治体の力では格差や貧困を根絶することはできません。しかし、小さい町だからこそ、きめ細かくケアを行い、未来に絶望する子どもを減らす最大限の努力はしたい。

和光市が先進事例でありたい

加藤:そういう地域に根づいた取り組みでいうと、和光市の地域包括ケアの高齢者の介護予防は長年の成果が数字にも表れて、とても注目を浴びていると思います。

和光市 介護予防と自立支援マネジメントの効果

全国・埼玉県内と比較すると、要介護認定率を抑えられている

松本市長:そうですね。実際に、介護予防や子ども子育てでは、和光モデルを横展開しようと国が動いています。そうやって地方の取り組みを横展開して広げていくのが地方創生のミソですし、常に先進事例でありたいですね。ただ、その時に表面的な施策を写してもらうのではなく、魂の部分をしっかり広げたいと思います。あとは地域に根ざした課題に地域の方々が地域の資源を使って取り組んでいくわけです。
加藤:確かにその地域独自のニーズを理解したり、地域のキーマンがつながったりすることで上手くいくことも多いので、スキームだけ横展開すればできるものばかりではないと思います。
※本インタビューは毎日1話ずつ更新します(全6話)

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