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桑原真琴 本番5

人を知る

【元瀬戸内市 桑原真琴氏:第5話】力のある自治体職員には 外に飛び出してほしい

自治体の弱みは組織として 普通の世の中を知らない

加藤:話が少し変わりますが、自治体の強みと弱みはどういうところにあると感じられますか?
桑原氏:そうですね、財源がもちろん苦しいんですが、予算がいきなり半分になったりはしない。継続的にあるというのは組織としての大きな強みですよね。安心感があるじゃないですか。
 弱みは組織として、普通の世の中を知らないと思いますね。たとえば、自治体のPRビデオだとか、ああいうのも最初は面白いけれども、もうだいたい飽きているじゃないですか。ゴールを合理的に見通していない側面は否定できないと思います。その辺は、民間視点が全て良いわけじゃないですけど、どうにかならんかとは思いますよね。

ニーズの多様化とスペシャリストの必要性

加藤:官民の人材流動性が高まるといいですよね。その上では、自治体の人がもっと外に出ても良いと思います。
桑原氏:はい。自治体職員はやはりまだまだ外を見切れていないと思います。
加藤:異動が多いので、職員の方が専門性を伸ばしづらい環境にいる。それが転職の際の職員の方の価値を落としている気がしています。
桑原氏:そうですね。だから僕は異動に大反対で、「同じ部署に15年いて何が悪いんだ」と思っているんですよ。これからの時代はニーズが多様化するわけです。その時に、全部署にスペシャリストがいないと、市民に対して質の高いサービスを、本当に提供できるのかは疑問ですよね。

力のある職員には 外に飛び出してほしい

加藤:民間企業の異動では、比較的自分の近い部署、ないしは、今まで自分が学んだスキルや経験をある程度使える部署にいくじゃないですか。それが、自治体の異動の話を聞くと、経験や知識がほぼゼロに戻る異動が沢山ある気がします。
桑原氏:ありますよね。僕の田舎の町役場で、ずっと広報をやっていた人は、広報の才能がとてもすごかった。彼の写真は自治体のコンテストで、いつも全国でも表彰されるくらい素晴らしい。ところが彼が去年、全く別の部署に異動になったんです。
加藤:ご本人は、どう感じているのでしょうか。
桑原氏:この前に話を聞いていたら、自分も最初は納得できなかったけど、「良かったな」と思うところもあると。たとえば、広報だと便利屋稼業みたいに、土日であってもイベントに行って写真を撮らなくちゃいけないとか、「そういうことがなくなった」と言っていました。
 でも、彼はドローンも飛ばせるし、プラスチックなんかの造形もできる。持っているスキルで絶対にどこでもやっていけるんですよ。その力を最大限発揮するために、転職したり、起業したりして、飛び出して行ってほしいと思います。

副市長退任後もパネルディスカッションなどで活躍

自治体は情報をオープンにしていかないといけない

加藤:自治体がさらに活躍するうえで、何が必要だと思いますか。
桑原氏:やはり、住民、民間、そして、庁内にも情報を共有し、オープンにしていかないといけないでしょうね。クローズド・マインドだと思うんです。結局、オープンにすることが自分のためでもあるというか、発信しない人に情報は集まらないですよね。それに、もっともっとダイバーシティを高める必要があると思います。
加藤:民間企業で働いていると、行政の人と関わる機会や情報がないですよね。
桑原氏:本当にそうです。市長の顔は知っているけど、副市長の顔なんてほとんど知らないですよね。だから、役所のほうから「出て行かないといけない」と思うんですよね。

自治体の仕事の成果は 市民生活に直結する

加藤:最後の質問になりますが、地方自治体で仕事をする『だいご味』を教えていただけますか。
桑原氏:瀬戸内市の規模で感じたのは、成果が市民生活に直結しますよね。たとえば、東京では民間サービスも山ほどある中で、行政がいくら頑張ったって「役所のおかげで俺たちの生活が変わったぜ」と一足飛びにはならないですよね。
 瀬戸内市の場合、それはダイレクトだったんですよ。道路が一本できただけで、町の人の生活が大きく変わってくる。そこはやっぱり『だいご味』ですよね。
加藤:民間にいたからこそ、その喜びが感じられるところはあるんでしょうか。
桑原氏:それはあります。もちろん、民間でもお客様から「良い仕事をしてくれてありがとう」と言われることもあります。でも、たとえば、自治体だと「災害が起きた時に、川が溢れなくてすんだ」と、命に関わる部分でも感謝してもらえる。前向きに仕事をすれば、いくらでも世の中を良くすることができる職場だと思います。
 それに、行政職員が役所に入った原理的なモチベーションは「自分の街を何とか良くしたい」ということで、そこはいささかの揺るぎもないだろうと思います。
 私は落語が好きで良く聞くんですが、色んな登場人物が出てきます。超ダイバーシティ。その中に「与太郎」さんという人気者がいます。まぁ、なんというか失敗が多いのですが、ちゃんと周りの人があたたかく見守って、道具屋だのカボチャ屋だの孝行糖というお菓子売りだの、食べていくために色んな仕事をあてがってくれます。
 単に恵んでやるというのではなく、周りが気にかけてくれている。結果、与太郎さんも色々失敗をやらかしちゃうんだけれど、周りがあたたかく見守り、支えあって楽しく暮らしていける社会。こういう社会をつくっていくのは自治体の役目だと思っています。
加藤:自治体だからこそできる役目がありますよね。長い間、貴重な時間をありがとうございました。
桑原氏:いえいえ。こちらこそありがとうございました。

編集後記

 民間で能力を高めた桑原氏が副市長になることで、気候の良い瀬戸内市にさらに追い風が吹いたのではないかと思う。公募をうまく活用している自治体は、少し前だと奈良県生駒市の副市長の公募や、宮崎県日南市の商店街の活性化等を担った、テナントミックスマネージャーの公募などがある。直近では大阪府四條畷(しじょうなわて)市が市長よりも高い年収1430万円で、女性の副市長を公募して話題をさらった。
 私はこの公募はさらに多くの可能性を秘めていると思う。まず前提として、現時点で副市長までもが公募をすることが可能なのであれば、ほぼ全ての職種について公募をすることが可能ではないかと感じている。
 特に可能性を感じる領域は、『観光に関する業務』、行政の持つ不動産活用を進められるような『PMに関する業務』。そして、自治体の資産である、自治体職員の力を最大限引き出す『人事に関する業務』だ。
 まず、事業部側となる2つについて。観光はJTBやH.I.Sなどの旅行会社と、自治体間において人を送り合うような人事交流があったりする。しかしながら、PM管理ができる人が自治体に出向しているという話を、私は今まであまり聞いたことがない。
 また、観光分野で人材交流があるといっても、自治体に一定期間出向者としてやってくるのと、自治体から直接採用され、責任を与えられるのでは、働き方や得られる成果にも違いが出てしまうだろう。これはコンサル会社に仕事を依頼するのと、コンサルタント経験者を採用する違いのようなものだ。
 そして、最後に人事について。私は自治体の人事については非常に興味を感じている。もちろん、民間の人事が全て正しいとは思わないが、私の印象では両者にかなりの違いがあり、民間の人事のノウハウを活用できるポイントも、少なからずあるのだと思っている。採用、配置、育成、評価、この領域を民間で人事部長などを経験した人に一度ハンドリングさせることで、民間と役所の持つ人事ノウハウの良いとこ取りができるのではないか。
 人事というのは自治体の官房部門であるし、ある種の既得権益でもある。民間であっても、人事権を握っている人はそれを手放したくない人は実に多い。さまざまな成果を残し副市長の立場であった桑原氏ですら、「なかなか変えられなかった」と言っている人事領域なのであるが、最近は人事評価制度の見直しなどを行う自治体も増えてきたことを考えると、全国の自治体で民間の人事ノウハウを取り入れるチャレンジを少しずつでも、進めてみたらいいのではないかと思う。
 これからの自治体はコストや効率性を鑑みて、全体としては業務の自動化やアウトソーシングを進める流れにあるのだと思う。しかし同時に、ニーズの変化も起きている。だからこそ、必要なノウハウを持つ桑原氏のような、民間で成果を残した人財を直接登用し、活用していくことも望まれているのではないか。その上で公募は一つの有効な手段になりうるのだと感じている。

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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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