インタビュー

【元瀬戸内市 桑原真琴氏:第2話】副市長として進めた 時間管理と人事制度改革

桑原真琴 本番2

役所に来て 効率を改善することが重要だと感じた

加藤:副市長就任後に庁内への時間管理の導入や、人事制度改革を進められました。これについて教えて下さい。

桑原氏:三菱総研にいた時に、大学の先生の時間管理調査をやった経験がありました。当時、『第3期科学技術基本計画』のフォローアップ調査の時期で、「引き続き、科学技術立国として、日本が世界に貢献していくためには何が必要なのか」ということを、いろんな組織が調査や研究をしていました。

 僕はノーベル賞一歩手前の優秀な研究者の方にヒアリングをしたり、アンケート調査をして、彼らの時間の使い方に関心を持ちました。あれほど優秀な研究者が日々時間を捻出するために必死で努力しておられて、感銘を受けました。

 お役所も非常に効率が悪いと言われていたんですけど、そもそも本当にそうなのか。また、もしそうだったら「何が問題なのか」を解き明かすべきだと思い、市長にも相談しました。市長はもともと会計事務所出身なんで、興味を持ってもらえました。

のんびりしているのに 職員が潰れるリスクもあった

桑原氏:瀬戸内市で仕事をして、最初にショックだったことがあったんです。のんびりした町だし、仕事も前職と比較しても激務とは言い難い。それにも関わらず、精神的に疲れている職員が想像したよりも多かったんですよ。正直、もっとの~んびりと仕事しているんだろうと想像していましたし(笑)。だから、何か問題があるだろうなと。

 結局、行きついた結論は、お互いの本音を話せるミーティングが圧倒的に足りない。「期初にこんな目標で頑張ろう」とか、普通の会社であれば必ずやっているようなことは一切やっていなくて、部長などの管理職のさじ加減ですべてが決まっていた。「お前、これやっとけ」という俗人的な感じです。

 もし、部長のマネジメント能力が高ければ、それでも良いです。でも、部長の能力が足りない場合、自分が失敗したくないから、優秀な奴にばかり仕事を振るんですよ。優秀なやつも期待されていると分かるから、当然受けてしまう。そうすると、優秀なやつに過剰な負担がかかって、結局、潰れてしまう。だから、部署によってモチベーションの差は激しかったですね。

加藤:仕組みではなく、個人の力に任せきりになっていたということですね。

桑原氏:はい。せっかく仕事する以上は楽しくやらないといけないと思います。

 もちろん、忙しい人が出て来るのはしょうがない。でも、忙しい人が出て来たら、所属メンバーの相互理解のもと、その人の持っている「他の人でもできる仕事」を、誰かに振ってあげないといけない。当時、各部長、課長は仕事の配分というか、平準化をほとんどやっていなかったので、可視化をするために時間管理をやりました。

各人の仕事の時間を集計し 負荷を分散させた

加藤:具体的にどう進めたのですか。

桑原氏:シンプルに一人ひとりに、今日何をやったか記録し、提出してもらいました。その後、第一段階として業務を適切に分配し、負荷を分散することで、不平不満を減らしていこうとしていました。

 ただ、実際に勤務時間を出してもらう時でも、「部長や課長に怒られるのがいやだから、実際よりも少なく書きました」という話も出てきたりしました(笑)。

 一方で、こういった日々記録する仕事は、その結果を踏まえて業務をどう改善するか、負荷を平準化するかというアウトプットとセットでなくてはいけません。そのアウトプットの指導まで行きついたかというと必ずしもそうではなくて、職員の仕事が激変したかというとそうでもないので、反省点ではありますね。

桑原真琴 2-2

現在のオフィスで仕事をしている様子

市長と副市長が年に1回 全職員と30分面談

桑原氏:あとは、そういうことばかりやると、結局、管理マシンみたいに見られてしまうので、市長の方針でもあり、毎年1回30分の面接を、ほぼ全職員としました。市長と私と3人でやりましたが、それはとても良かったです。

加藤:目標面談みたいなものですか?

桑原氏:目標面談もやりましたが、それとは別に行いました。「目標面談で面と向かっては言えなかったけど、やっぱり納得がいかない」というところを、ガス抜きするような効果があったと思います。ただ、これは業務時間ではなく、朝の7時とか、業務後にやっていました。

加藤:業務時間外なのですね。やはり本音みたいなものが出て来ましたか?

桑原氏:はい、「大変なんです」と言ったりして、急に泣き出す職員もいました。そういう不満を聞いて、必要であればその対応ができたと思います。

上にも下にも影響力のある中間層が重要

加藤:他にも、何か人事改革として手を打ちましたか。

桑原氏:正直、最初に職員を見た時に、真面目だけど元気がないと感じたんですね。これは100%成功したとは言えないんですけど、コーチングをする会社に来てもらって、特に、中間層にコーチングをしました。なぜ中間層かというと、上に対しても下に対しても影響が及ぶと思ったからです。

加藤:中間層というのは、だいたい30~40代ですか?

桑原氏:そうですね。当時で、40手前ぐらいの係長くらいですね。正直、僕がいた頃の部長くらいまでは、採用のシステムも現在とは相当違うだろうから、その年代の人たちに今から変わってもらうのは、なかなか難しいと思いました。

役所には安定志向で真面目な人が集まってくる

加藤:採用についてはどういう活動をされましたか。

桑原氏:僕も採用面接をかなりやりましたが、役所には似たようなタイプの人が来ていました。

加藤:どういうタイプですか?

桑原氏:安定志向で真面目な人が多かったです。ただ、1人、ちょっと変わった格好をした、とても面白い人が来たんですよね。大学を中退してバーテンダーをやっていたんですが、「役所もちょっと良いと思って来ました」みたいなことを面接で言っていました(笑)。

 もちろん、採用は面接だけじゃなくて、学力試験と適性試験をやるんです。彼は学力試験も適性試験も結果が良いんですよ。いろいろな経験をしているし、テストの成績も良いので、「こういう人のほうが面白いんじゃないか」と思って、僕はすごく高い点数を付けたんですけど、総務部長とかの評価がものすごく低くて、結局、その子は採用に至らなかったんです。

加藤:今は、そういうタイプの人が必要だという話も出てきていますよね?

桑原氏:はい。田舎だと公務員って敷居の高い職業だと思われがちなところがあるんですが、今の時代は『市民に寄り添える感覚』を持っていたほうが良いと思うんです。ダイバーシティはとても重要。ただ、なかなか職員のほうがそう思えないのかなと。

「あいつは副市長のお気に入りだから」

加藤:自治体では成果を出している人の抜擢人事が少ないと聞きます。それはどう感じましたか?

桑原氏:とてもやりたかったですけど、そこまではいかなかったですね。たとえば、評価が高い人は給料は上がらなかったとしても、自分が行きたい部署に行かせてあげるとか、せめて、そういうことは実現させてあげたかったですけどね。

 ただ、なかなかそういうのを良しとしない風土でした。たとえば、僕は瀬戸内市役所から結構遠いところに住んでいたんです。だから、チャリンコで仕事に通っていたんですが、雨が降った時には、近所に住んでいる若手職員の車に乗っけてもらっていたんですよね。彼は意欲も高いし、すごく優秀で頼りにしていました。統計手法なんかも良く分かっていましたしね。

 そうすると、「あいつは副市長のお気に入りだから」とか・・・。また、他の職員なんかがそれとなく言ってくるんですよ。「そんな風に見えるのか」とか、「くだらない」と思いましたけど、やっぱり彼が損してはいけないと思い、配慮はするようにしました。私も田舎出身で、この感覚はとても良く分かるだけに、残念な感じでしたね。

「頑張った人と頑張らない人の給与が一緒」はマズい

加藤:人事制度の改革を進める中で、給与制度の理想的な形はどういうものだと考えていましたか?

桑原氏:ドラスティックに変えようとは思ってなくって、「10円でもいいから、頑張った人の給料が上がれば良いな」と思っていたんですよ。『頑張った人と頑張らない人が一緒』はマズいと思っていました。ただ、これも変え切れなかったですね。

加藤:それは抵抗みたいなものが大きかったのでしょうか。

桑原氏:若手職員の中では前向きでしたが、やはり、総務部長、総務課長マターになると、「まだちょっと、時期尚早ですかね」みたいな。じゃあ、「いつになったら時が満ちるの?」と聞いても、あまり答えはなかったんですけど(笑)。せっかく職員も頑張っているので、何とかしたかったのですが・・・。

一度に全てやろうとしても散漫になる

加藤:なるほど。副市長としての強権を発動して、無理矢理「これでいくんだ!」とやると、他の案件が進まなくなることがあったりするのでしょうか。

桑原氏:そうですね。私も田舎出身ですから、そうそう突っ走る気持ちもなくて、職員の気持ちも尊重しないといけませんし。

加藤:そうすると、優先順位の高いものはある程度ゴリゴリと通していき、低いものは折れるような。

桑原氏:まさに・・・、まさにそう。しかも、それを進めるためのプロジェクトが増えれば増えるほど、みんなの力が分散してしまう。そこは、バランスを見ながらということでしょうかね。

※本インタビューは全5話です

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