インタビュー

【岩手中部水道企業団 菊池明敏氏:第6話】水って ないと死にますんでね

菊池明敏6日目

既存のものを当たり前だと考えない

加藤:お仕事をしている中で感じる『だいご味』はありますか。

菊池氏:育成ですね。すっ飛んでいる若いやつらが出て来るとほんとに面白いです。個々の分野に関しては、残念ながら僕はもう負けているんですよね。

 ただ、これは負け惜しみですけど、総合的にはまだ少しは勝っていると思うんです(笑)。だけど、個々で見て、例えば、資金運用の分野でも、若いやつが僕の上をいっていますし、ダウンサイジングでもそう。それは面白いですよね、すごく面白い。それで、突拍子もないアイデアをぶつけてくるんですよね。

加藤:そうですか、それは嬉しいですね。

菊池氏:それが『だいご味』って言えば、『だいご味』です。うちのスピードってすごく早くて、一回計画作った時に、予測値と違う決算結果が出て、ズレが発生してきたので、その6か月後にその計画のメインの事業を潰していますからね。そういうスピード感で動いています。

 既存のものを当たり前だと考えない。ある意味、節操ないって言えますが(笑)。ただ、良い方向に行くんであれば、もうボーダーレスでどんどんどんどん変えていく。「そういうことができる状態になったのかな」と思って、「このスピード感は、普通の自治体じゃ持てないだろうな」と。それが面白いですね。

常に修羅場と隣り合わせにいる

加藤:2010年6月に北上市の水道の漏水事故があり、司令部から苦情対応までの仕事を、役所として100人以上の方を投入して対応しました。振り返ってみると、どういう印象が残ってらっしゃるんですか?

菊池明敏6-2

菊池氏:修羅場でしたね(笑)。

加藤:そうですよね。不眠不休で対応に追われ、4人の方が倒れてしまっているわけですよね。

菊池氏:ただ、修羅場はあれだけじゃなくて、東日本大震災もありましたし、重油流出なんかもありました。水道は生活基盤を担っていて、消防と同じ。クライシスって必ずあるんです。

 その時に人間の馬鹿力って何かなって思います。『水道人』ってみなアホなんです(笑)。それが、僕が水道に骨をうずめるそもそもの原因だったのかもしれない。やっぱり、おっちゃんたちって「水吹いた! 大変だ!」って言って、肩に力を入れて、ガーって出ていくんですよね。「なんとかしたるわい」って。それは、言葉に言い尽くせないですよね。

菊池明敏6-3

 

水って ないと死にますんでね

菊池氏:だから東日本大震災の時もそう。僕も事務屋ですが、給水車に乗って沿岸被災地の現場に行ったんです。陸前高田市まで行ったんですが、まあ、悲惨を通り越して凄惨ですよね。もう赤い旗(※遺体が見つかったことを示す)がいっぱい立っている。そういう中を給水車に乗って気合だけで行くんですよ。

陸前高田2

菊池氏:「水持ってくんだ」「命だべ」みたいな。そういうアホさ加減なんです。東北全域が停電で真っ暗で、街灯さえ全くないところを全国から何十台、何百台の給水車が出て来る。沖縄からも来た。水道のおっちゃんたちは何にも考えちゃいない。ただ「持ってくんだ!」しか考えていない。かっこいいですよね。

 結果、500台から600台、全国から集まって来るんですよ。被災地で給水車が集結して、全然知らないおっちゃんも「うおー」とか言って「どこから来てんねん」って。どんな修羅場であろうが、彼らは給水活動をするんですよね。

陸前高田1

加藤:大変なことがあるたびに、水道に対する想いがどんどん強くなっていったんですね。

菊池氏:そう思いますよね。水ってないと(人が)死にますんでね(笑)。

加藤:そうですね(笑)。

菊池氏:電気もないと死にますけど(笑)、日中はなんとかなるじゃないですか。ただし、水がないと何もかもできない。「それこそ人殺しちゃあかん」っていうような気持ちで、自分らのできることは小さいかもしれないけど、「水届けるんだ!」って想いは、水道のアホなおっちゃんには、どうやらみんなにあるらしい。でも、それは「悪くないな」と思いますよね。

菊池明敏6-4

加藤:まさにかっこいい人たちですね。貴重なお話をお聞きできました。本当にありがとうございました。

菊池氏:こちらこそ、ありがとうございました。

編集後記

 『アホ』という言葉に、これほど愛情と敬意を込めた言い方をする方に初めてお会いした。菊池氏は心から水道事業を愛しているのだと思う。先日、小泉進次郎氏が魅力的な公務員として『ミスター○○』という、その道その道のプロである方々のお話をされていたが、菊池氏はまさに『ミスター水道事業』と呼べるような方ではないだろうか。

 同時に、私はこの素晴らしい取り組みが実現された中で、懸念されるべき点も感じた。それは地方自治体の『異動』の慣習だ。もし、菊池氏が北上市役所時代に『異動』をし、他の部署の仕事で忙殺されていたとしたら、この広域化への取り組みは実現されたのだろうか。また、花巻市と紫波町においても、運よく水道事業にキーマンが残っていたとのことではあったが、もしそうでなかったとしたら、果たしてその結果はどうなっていたのだろうか。

 先進的な取り組みが行われた背景として、「専門性を持った志の高い人たちが、その能力を発揮できる場所に多く残っていた」という事実。これが、大きなキーではなかったか。

 もちろん、一概に『異動』の全てを否定する気はない。『異動』により様々な立場を経験することで視野を広げ、能力を高めることもできる。そして、特定の組織との癒着を回避できるということもある。

 しかし、一般的に言われるように、私も地方公務員の『異動』の慣例は、専門性を伸ばしていく上では弊害があると感じている。いまは提供すべきサービスが多様化している時代であるからこそ、自治体としては専門性を高めることが、より重要になってくるのではないかと思う。

 地方公務員の『異動』はその業務の変化の大きさから、転職にもなぞらえられる。しかし、仮にそうだとした場合に疑問が残る。世の中の中途面接の場において、十分な専門性がない志望者が「2~3年で辞めるつもりです」と明言した場合に、面接を通る可能性は低いだろう。というのも、採用された人間が、入社後に限られた時間の中で、教育コストを上回るパフォーマンスを出す必要があり、その難易度が非常に高いと判断されるからだ。

 実は、役所が民間人を採用する場合であっても、専門性を有さない未経験者を簡単には採用していないのではないか。当然のごとく、教育を含めたコスト効率が悪いからである。だとすると、なぜ、役所内の『異動』は数多くあるのだろうか。

 もちろん、他組織からの転職とは違い、既に組織風土や文化を理解していたり、気軽に相談できるような人間関係が構築されているため、新しい部署でも活躍しやすい立場にはあるのだろう。とはいえ、頻繁な『異動』が個々人の専門性を高めることへの障壁となっている部分は拭い切れない。

 では、具体的に「どうすべきか」という観点で述べると、「係長以下の若手の『異動』は、専門性を育む視点から、なるべく同じ部局の中の『異動』に留める」こと。その一方で、「課長職以上の人材に関しては2~3年で部局を問わず『異動』させていく」ことが望ましいのではないかと考える。これは自治体同様に、事業領域の広い総合商社にならっている部分も多い。だが、実は大手の商社ですら、課長職が部局を跨って『異動』することは少ないそうだ。つまり、そのぐらい専門性を重視し、その喪失を恐れているということでもある。

 「異動による専門性の喪失」が生じさせる結果は、直接的には目に見えづらく、そうでなかった場合との比較、検証が難しいことでもある。そんな背景の中、いままでの慣習に従って続いているということはないのだろうか。

 一度定着した仕組みを変えるには不安や不満も出て来るだろう。しかしながら、これからさらに多様性が進んで行く時代の中、専門性をもとに考え抜かれた事業方針やサービスこそが求められていくのではないだろうか。

 そして、別の観点もある。私は度重なる『異動』が、自治体職員の転職市場における価値を相対的に下げ、民間企業からのオファーを受ける機会を奪う、もしくは、転職時の待遇を貶めることにつながっているのではないかと思う。

 そういう状況では、もともと人気のある公務員という仕事から離れる理由がさらになくなっていく。つまり、専門性を高める障壁である『異動」が、結果的には官民における人材流動性も奪っている気がするのだ。そうだとすれば、この『異動』の考え方について、新たに問い直す機会があっても良いのかもしれない。

※本インタビューは全6話です

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