インタビュー

【岩手中部水道企業団 菊池明敏氏:第4話】全域で蛇口から直接水が飲める 類まれな国『日本』

菊池明敏4日目

統合における最大のメリットは『人材確保』

菊池氏:統合をやってみると、如実にダウンサイジングできます。ただ、一番大きい効果があったと思っていることは、人材確保ですね。水道事業は人数がある程度いないとどうしようもない業界なんです。水道管が破裂したり、何か事故が起こった瞬間に、ある程度の人数を投入しなければならない。

 トラブルがあると、気合入れてみんなで行くわけです。精一杯やれることをやっていくので、人数がいないと替えもいない。そうしたら倒れちゃうんです。ある意味、消防とかと一緒なんです。

 だとすれば、そういう対応のできる人間をちゃんと集めておく。なおかつ、うちみたいに全員プロパーにしちゃうと、「異動だ」って言われて、ポイポイと持っていかれる世界にはならない。

 僕が市の水道事業にいた時に、若いやつが一人前になってもポイって持っていかれる。それがものすごく悔しくて、「じゃあ誰が後を継いでくれるの?」って思いがずっとあったものです。

加藤:そうですよね、どうしても役所の中の動きですと異動は避けられないですよね。

菊池氏:「それを断ち切りたかった」というのが、私の邪道な考え方です(笑)。最初に岩手中部水道企業団に来た若いやつの中にも、役所に残っていたら絶対に頭をバンバン叩かれていたようなやつらなのに、うちに来たら羽をはやして好き放題やっていてね(笑)。

 でも、イノベーションってそういうやつらが起こしているんですよ。3年経って来ると、やっぱり何人か優秀なやつが出て来るんですね。それが本当に面白いですね。「こいつら鍛えてなんぼやねん」っていうのが、そこがいま、僕の一番の生きがい。そうしたらDNAを継いでくれますでしょ? そうしたら彼らが必ず次の世代を創る。連鎖なんです。

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「そんな根性のないやついらねえ」

加藤:いつ頃から育成への思いが強くなられたんですか?

菊池氏:水道に来て、係長になった時から。

加藤:結構、前からですね。

菊池氏:ですね。10数年前から。さっきの話と重なるんですが、鍛えてだんだん良くなると持っていかれるのが面白くなくて(笑)。技術者ともずっとそういう話をしていました。「俺らの想いを継いでくれるのは誰なんだ」って。人を作っても、作っても持っていかれるよねって。

 だから、岩手中部水道企業団のメンバーについて、最初は首長からも「出向でいいんじゃないか」って話もありました。ただ、僕が「そんな根性のないやついらねえ」って言ったら、「あ、そうか」で決まっちゃった。「よし、やったー!」って思いましたよ(笑)。そして、全職員から希望をとって、希望出した全員が全部退職。移籍するって。

加藤:豪傑ですね(笑)。しかも、みんながついて来たわけですね。

菊池氏:ただのやりたい放題です(笑)。

全域で蛇口から直接水が飲める類まれな国『日本』

加藤:ちょっと話は変わるんですけど、日本の水道のテクノロジーってすごいじゃないですか。海外に技術移転をするのも、各自治体の個別の水道事業者がやれる。なぜ日本の水道事業の技術はそこまで高まることになったんですか?

菊池氏:これはやっぱり高度成長の時の、日本のほんとにラッキーだった戦略だったと思います。すごさを一言で言うと、日本ってのは世界で数か国しかない、全域で蛇口から直接水が飲める国なんです。

 そういう国は「世界で5、6カ国しかない」って言われているんですよ。それも国土の小さいシンガポールとかも入っています。これだけでかい国で、どんな村でも蛇口から水が飲めるってのはないんですね。

日本は格安で高品質の水を使うことができる

菊池氏:その水質基準もペットボトル水よりも、基準としては厳しいです。味は別ですけどね。例えば1ヶ月のうちに4人家族で20トンを使うとして、それをペットボトルで賄うとすると。120円の500mlペットボトルで、1ヶ月480万円なんです。年間5760万円ですね。

 それを1か月3000円、4000円程度で使える国は、日本だけなんですね。僕は個人的に、高度成長は水がないとできなかったと思っている。半導体を作るにも、建物を作るのにも、人が住むにも全て水が必要ですから。

 でも、その裏に行政のものすごい投資があった。しかも、他の国はずーっと長い連綿と続く歴史の中で作ってきています。でも、日本はいきなりバーンって作っちゃったんです。

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JICAの事業として岩手中部水道企業団が、アフリカ諸国の上水道上級技術者を育成

「震度3でも、そろそろあのへんやばいかな」

菊池氏:こんな急激に作ったもんですから、次にまた設備を更新する山が来るわけですよね。ここまで変動の激しいインフラを整備した国は日本しかない。「荒廃するアメリカ」って本があるんですが、アメリカでも1980年代に橋がバタバタ落ちてインフラがダメになった時があって、その時に「インフラをしっかり整備しないと、人々の生活そのものがダメになる」という話が出て来て、そこからインフラに注力をするようになったんです。

 日本人はまだ公共施設が壊れることが少ないから、一度作ったものがずっと続くもんだって思っているんですね。ところがこのままだと持たない。現場では毎日、「水が吹いた。ワー!」ってやっていますし、そうなるとそこに飛んで行くわけですよね。地震が起きれば行きますし、現場の管を見ていて、「震度3でも、そろそろあのへんやばいかな」というものもあったりします。正直、もう壊れ始めています。水道管が一斉に更新時期に差し掛かっている。要するにこれから全部入れ替えが必要なんですよ。

水道管も進化している

加藤:入れ替える時に、最初に敷設した1960年代よりも新しいテクノロジーがどんどん出てきています。昔に比べて設備投資額を抑えられるようなものは出てきているんでしょうか?

菊池氏:いまの耐震管は、震度7にも耐える耐震管になっていて、耐用年数も伸びています。前は法定耐用年数40年でしたが、40年持たないものもあれば、50年60年くらいのものもありました。ところが、いまの耐震管は100年持つって言われています。

 まあ、多分、ちゃんと持つんだろうけど、いま生きている人はほとんど誰も検証できない(笑)。そういうテクノロジーはずっと発達していて、東日本大震災でも、耐震管については被害ゼロですし、熊本地震の時もゼロです。

 ものは高くなっていますが、耐用年数が長くなる。それは使えるんだろうなとは思います。あとはやっぱりソフトの関係で、アセットマネジメントをしっかりやって、ダウンサイジングしていかなきゃいけない。

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限界集落に新しい耐震管を入れることは難しい

菊池氏:あと、いまうちで考えているのは「限界集落はどうするか」って話です。これは冷酷な話になるかもしれないんですけど、あと20年しか持たないと予想される限界集落に、「百年持つ新しい耐震管を入れるべきか」って話になると、「それは無理じゃないか」と思うんです。だから、地域によっては、「管が水を吹いたら直すだけ」という対応も当然ありだろうなと。

加藤:ありだと思います。住民の反発が出て来る可能性があって言いづらいのかもしれないですけど、しっかり説明をしてもらったほうが、みんな最終的には幸せになるような気がします。「情報を出さないとそれが当たり前」だと思い続けてしまうと思うんです。

菊池氏:これからはどういう説明をしていくか、「ここは直しません」よって説明もしなきゃいけない時が必ずあると思うんで、アセットマネジメントのミクロ計画を作っている中で、優先順位を決めるようにしています。

 例えば、大病院があるところには、優先的に必ず最新の管を入れる。それに対して、ほとんど水量がないところは、破損したら当然に直しますが、「このままでいきたいと思います」というアナウンスはもう近々にしなければならないと考えています。

加藤:素晴らしいですね。それは住民の理解が得られる良い方策と思います。

※本インタビューは全6話です

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