インタビュー

【岩手中部水道企業団 菊池明敏氏:第3話】広域化によって、浄水場の数は34から21へ

菊池明敏3日目

広域化により浄水場を潰して、34から21施設へ

加藤:広域化以降、具体的にしていったことは何でしょうか。

菊池氏:例えば、稼働率が5割ぐらいの安定した水源を確保できるダムがあったんですよ。でも半分しか使ってない。ものすごく非効率に利用されている。かたや、小さな施設で安定していない水源がいっぱいあった。小学生だって、「その水源を潰して、余っているダムから水を送ればいいや」とわかりますよね。

 ところが市町村境があって、権利水量の関係の問題からそれを越えられなかった。だから、僕らの最初にやるべきことは、それをみんなに分配しちゃえばいい。そうしたら、えらい効率良く浄水場を潰していっていけるっていうことで、シミュレーションしてみたら、34から21施設にできると。

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いままでの枠組みを越えて統廃合を進めることができる

菊池氏:統合してから着々と、ここ3年で5つ潰しました。このほか老朽化した基幹浄水場を2つ更新しています。稼働率は8割くらいまで上がったんです。浄水場を潰せるから施設の減価償却も維持費もなくなった。ダウンサイジングということです。残している浄水場は安定している水源なんでリスクも低い。それは住民にとって幸せですよね。

加藤:なるほど。

経済が右肩上がりの時に作った水道施設では4割の水が余っている

菊池氏:余ってしまう水をどれだけ圧縮できるか。水道事業ってどこもそうなんですが、経済が右肩上がりの時に作った施設が余っているんですよ。全国的にいえば、6割しか使ってない。4割余っている。

水の使用量の減少に伴い施設も縮小させていく必要がある

加藤:これからも、水の使用量が減少していきますよね。

菊池氏:そうであれば、そこに合わせてダウンサイジングしていくしかない時代に日本は突入していて、これはもう絶対に覆せない。人口減少も覆せないですが、使用水量は完全に減っています。日本最大級の都市なんかも給水収入が100億減っていますからね。10年間で、800億から700億。中部地方の最大都市でも、人口は伸びているのに60億の減収。

加藤:人口が伸びているのに使用量が減る理由はなぜでしょうか。

菊池氏:一言でいえば『節水』です。

加藤:意識が変わっているということですか?

菊池氏:意識もですが、それよりも性能です。例えば、水洗トイレは20年前、1回につき20リッター流れていたやつが、いま最低のもので3.6リッターなんですよ。5分の1以下。昔は一回流すと、「いつまで流れるんだ」ってくらい流れたんですよ。節水型の洗濯機、風呂、食器洗浄機、自動水栓等々あげればキリがない。

 水量が減れば収入は減りますよね。それに加えて、1960年代から、ものすごい投資を尽くして作った水道管が、これから全部壊れていく。全部入れ替えが必要になるんです。以前よりも物価は上がっている中で、投資をしていかなきゃいけないんです。「そういう投資ができるか」って言ったら、会計的にはどう考えても破綻。

 であれば、投資を縮めてやるしかない。あとは効率化を上げて、有収率を上げることをやっていかない限り、会計的には絶対持たないですね。それで、シミュレーションした結果が統合計画に作った財務シミュレーションなんです。

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菊池氏:要するに何もしないで単独で生きていたら、原価はべらぼうに上がる。だけど、もし統合したらこれに抑えられますよと。このシミュレーションができたんで、とにかく首長と議会と住民の説明と、すべてこれで通しました。

加藤:これを見たら、やらざるを得ないですよね。

首長や住民にとって不都合な真実

菊池氏:だから、首長や住民にとったら不都合な真実なんですよ。しかし、嘘じゃないので。「不都合な真実をみなさん受け入れますか」って言ったら、みんなちゃんと考えてくれますね。

加藤:菊池さんがこのシミュレーションを作った時代は、まだ老朽化にそこまで着目されてない状態じゃないですか? むしろ、公共施設を作れるものなら作りたいみたいな方もいたのかもしれない。

菊池氏:はい。そういう時代ですね。水道はもうほとんど普及していたんですが、下水道に関しては、未だに「未普及だから広げてくれ」という声はまだ根強いですね。

良くしようと思ってやったことでも、潰れる会社も出てきた

菊池氏:北上市もそういうところがあったんですが、僕が下水道会計の企業会計化で会計の破たん状態を暴いちゃったら、簡単にお金を使うことは無理だとなった。その結果、年に20億近くかけていた事業が、2年経ったら2億まで激減しました。

 それは僕がやっちゃったんですけど、うちの母ちゃんが、源泉徴収票を1000枚2000枚と見ていく仕事をやっていて、その時に「あんたね、世の中の地方の人たちって、年収300万200万で、家族4人で暮らしているんだよ。あんたが何をしたかわかる?」って言われて、その当時、考え込んで夜寝られない時がありましたね。本当に。

 下水道は地元の業者のメインの仕事なんですよね。「縮小は必要なことだった」とは思っているのですが、年収2~300万で4人一緒につつましやかに暮らしている家族の、いったい何組を「路頭に迷わせたのか」と夢にも出てきましたね。

加藤:良くしようと思ってやられていたわけですよね。

菊池氏:ただ、現実に店をたたむ会社も出てきた。それはショックでしたね。

「いますぐ拡大を止めなければいけない」

加藤:それは本当に難しいですね。でも放置していたら、いつかそうならざるを得なかったと思いますし、全体を考えたら正しいことをしているんですけどね。

菊池氏:それは僕、いまでもトラウマなんです。だから、そうなる状況を作る前に会計をちゃんとしないといけないっていうのはあります。ここまで酷くならなかった、もっと前に止められたという思いがあるので。

加藤:いまは、全国でそういうことが起きるわけですよね。どんどん早くやらないと、もっと被害が大きくなってくるってことですよね。

菊池氏:だから、いまは講演や委員などで、もう脅かしにかかりますけどね。行く先々で「いますぐ拡大を止めなければいけない」と、ずっと言っています。

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全国で統合に向けて動きが出て来ている

加藤:岩手中部水道企業団は、二市一町からなっています。広域統合するのであれば、大きくなればなるほどメリットが出やすいような気もするんですね。なぜ、この二市一町になったのでしょうか。

菊池氏:言ってみれば、同じダムから用水供給受けていたのが3つだったので、この枠組みでスタートしました。

加藤:近隣市で「うちも入りたい」というように、だんだん風向きが変わってこないんですか?

菊池氏:この頃ちょっとあります(笑)。いま、厚労省と総務省、そして県が主導して「ちゃんと広域化を検討しなさい」と指導することをやっていまして、それが全国で始まっています。そういう場に行くと、「頼みたいと思っているんだけど・・・」という話をちらっとされています。

加藤:現場の担当者の方だと、「進めたくても役所の中で調整ができなくて歯がゆい」みたいな方もいらっしゃるんでしょうか。

菊池氏:います。だから、現場の担当者は割と切実に思っていることは多いですね。

加藤:これは「信長の野望」とかじゃないんですけど、陣地取りみたいな感じで、ちょっとずつちょっとずつ隣接市みたいなのを吸収していったら、どんどんコストメリットも出そうな気もするんです。そういう動きにはならないんですか?

菊池氏:あります。例えば、大阪もいまやっていますし、去年の4月ですけど、群馬東部とか秩父とかも統合しました。2例目と3例目ですよね。あとは香川県でもいま進んでいますし、沖縄なんかも去年呼ばれて行ったんですが、そういう動きも出てきています。

全国でいろんな動きは確かにでてきていると思います。「ちゃんと考えると、やらなきゃいけないだろうな」って考える人が相当多くなってきた。ある意味、検討するのがブームみたいな感じです。

加藤:それは、とても良いことですね。

※本インタビューは全6話です

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