【福岡市 今村寛氏:第3話】市役所職員は良い子ちゃんばかりじゃない

市役所職員の本質は良い子ちゃんばかりじゃない

加藤:愚痴っていうのは、そこに組織の課題が見えたりしますよね。その中で聞いてくれた人が「いや、でも俺はこうしてたよ」、「こうしたら良いんじゃないか」とか相談相手になれますよね。あまりネガティブに捉えず、「そういうことを言っていいんだよ」ということを市役所の組織としても受け入れられて、そこから皆さんが前向きに行動していくことになれば、非常に建設的なものになるのかと感じました。

今村寛氏:ただ、オフサイトミーティングで私たちが気をつけているのは、建設的でなければならないという縛りをしないことです。「愚痴は愚痴で言いっ放しでいいんだ。何の解決策もなくていいんだ」としておかないと、常に建設的なことを考えられる人しか、オフサイトミーティングに参加できなくなってしまうんです。それは禁酒令の時にそう思ったんですね。

 禁酒令って、実は第1回のオフサイトミーティングは「禁酒令が出たけど、どんな風にこれをポジティブに受けとめるか」ということを、結構前向き思考の方々がいっぱい集まってそういう話になったんですね(笑)。その後に、その場に来られなかった人たちが「2回目をやってくれ」って言って、2回目をやった時はそんなに良い子ちゃんばっかしじゃなくて、「愚痴を言いたくてしょうがない」、「不満をとにかく爆発させたい」って人たちもそれ相応の人数がいて(笑)、そういう人も一緒になって対話をすると何が起こるかっていうと「綺麗ごとばっかし言うな!」って話になるわけですね(笑)。

 それは市役所職員の本質なんですよ。良い子ちゃんばっかしじゃなく、普通の人達が沢山いるって意味で。その普通の人たちが沢山いる状態を許容しないと、何でも話せる場にはならないですよね。だから今、オフサイトミーティングは何にも解決しない場にしています。もしそこで、「何かこういうことをやったらいいんじゃない?」とか、「こういうアクションをしよう」と言い出す人がいたら、それはそれで、やりたい人でやってくれと。いわゆる、スピンオフと呼んでいますけど、オフサイトミーティングは何もしない場。「やりたい人はスピンオフでやって、失敗したらいつでも戻ってきてね」っていう感じです。

加藤:あくまでも、皆さんが気軽に来られる居場所として機能をしているんですね。

今村寛氏:でも、これは最初からそういうコンセプトではないんですよ。場づくりをやっている中で、「場で話しているだけじゃ面白くないから動こうぜ」って若いやつらが出てきて、動きたい人と動きたくない人でトーンが分かれたので、動きたい人は別でやるということになっていきました。

民間人を混ぜたオフサイトミーティングを開催

加藤:そこに新しい展開が生まれているんですね。今、オフサイトミーティングの中で民間とも接点を持たれているじゃないですか。民間人は飲みに行くと上司や仕事の愚痴とかが、いろいろ出てくると思うんですよね。ただ、その民間人から見ると市役所の人から愚痴や、大変だという苦労話を聞けると、親近感を持って一緒に仕事をしたり、自分も協力したいというような相互理解が進むかもしれないですね。

今村寛氏:そうですね。民間を混ぜるというのも瓢箪から駒で、禁酒令の1ヶ月間はずっと役所の人間だけでオフサイトミーティングをやっていたんです。その中で、「1ヶ月間我々は役所の中で悶々としていたんだけど、これって外から見たらどう見えたんだろうね」といった、民間の人のリアクションを聞きたいって言う人が何人かいたので、禁酒令の1ヶ月の明ける日にやった最後のオフサイトミーティングだけ民間の方を入れたんですよ。

 そしたらやっぱり面白くて、我々が内側から見ていた1ヶ月と全然違う見方をしている人もいて、温かく見守ってくれている人もいたら、「お前たち、何そんな甘いこと言っているんだ!」って人たちもいて、役所の外の社会の感覚を体験できたので、「やっぱり役所の中に閉じこもっていたらいけないよな」と。それでオフサイトミーティングでは時々、民間の方を入れましょうってずーっとやっているんですね。けど、いつも民間を入れていると、役所の人間同士だから話せることも話しにくくなるので時々オープンにしています。

自治体職員特有の課題は説明責任

加藤:その悩みというか、愚痴の中身みたいなものは、地方自治体職員特有のものもあるんでしょうか。

今村寛氏:どうなんでしょうね。大企業病みたいな、組織が縦割りだとか、上司とコミュニケーションがうまくいかないみたいなことは民間でもあると思うんですが、役所特有なのは説明責任の話ですね。クレーマーであるとか、議会であるとか。「クレーマーであっても、どんなに理不尽なことがあっても、誰に対しても等しく丁重に扱わなければいけない」みたいな変な神話があるので、それがストレスになるという話が出ることはあります。

加藤:まさに神話と言うか、民間の多くの人って普段、自治体へクレームすることにあまり執着や興味を持っていないと思うんですよね。逆に、声の大きいクレーマーに優先的に税金を使われたり、そういう人の意見が通るってことは起きて欲しくないとは思います。民間の人と自治体の人が繋がっていくと、相互理解が深まり「そんなに説明しなくても良いよ」なんてことも出てくると思うんですけどね。

今村寛氏:それこそ今のSIMをやっている中で、行政の人間だけでやるのと、民間を入れてやるのじゃ全然違って、「コストを捻出するために、この事業を止められると思う?住民に説明したら納得してもらえると思う?」って話になった時に、民間の人がいるとスパっと腹を決めてやろうとする傾向があります。

加藤:そうですよね。住民もしょうがないものはしょうがないと割り切った方が良いと思います。仮に説明を求め過ぎてしまうと、それに対応する自治体の人的コストは税金から出るので、結果的に自分の首を絞めることになります。もちろん、一定の説明は必要だと思うんですが、既にある程度説明されていることも多いと思いますし、そのチェックを議会に担ってもらっている部分もあるので。

今村寛氏:今、公共施設の再配置計画とかをいろんな自治体でやっていますよね。福岡はまだ人口が増えているので、施設を減らしていこうとはなりませんけど、千葉県の習志野市とか、他の地方自治体でやっている例を見ると、「これから先、人口減少とか財政規模が小さくなっていく中で、全部の施設を維持できないよ」ってことをちゃんと話すと、単に「施設を壊すな」って話ではなく、「どこにあったら一番便利か」という話になるみたいなんです。

 最近いろんな自治体がそういったことに取り組んできているので、私が情報開示、情報共有、そして対話が重要だと言っていたことが、すごく時代に合って来ているなって思います。

加藤:そうですよね。まさに財政課が各事業部に全体としての配分を説明するから理解を得られるのと同じ図式ですよね。

今村寛氏:そうですね。それを市民と一緒に考えてもらうってことができるようになると、コンフリクトはすごく少なくなっていくんじゃないかと思います。

民間経験者が自治体で働く際に求められるもの

加藤:ちなみに、今のように福岡市役所の方の活躍や露出があると、民間人もここで働きたいという人が増えてくるんじゃないかと思います。今、民間登用は増えているんでしょうか。

今村寛氏:福岡市役所の民間登用は平成15年度からやっていまして、それまでは民間経験者であっても民間枠はなくて、会社を辞めて新卒とかと一緒に試験を受けるのが普通だったんですけど、今は社会人経験10年程度以上の方っていうのを対象に59歳まで受けられます。別の試験の枠があって最初は2人でしたけど、今は毎年5、6人ぐらいの枠で採っていると思います。

加藤:そういう方は所属される部署は大体決まっていたりするんですか。

今村寛氏:最初の部署は、ある程度人事がイメージをして採用をしているようです。今の私が所属する経済観光文化局には、民間採用が多いんですよ。やっぱり経済の仕事をする以上は、民間企業でちゃんとビジネスをやってきた方が即戦力だってことで、私の部下にも何人かいます。

加藤:民間での経験によって、誘致する際に企業がどういう視点で判断するかというのも含めて仕事ができるわけですね。

今村寛氏:はい。私はこの民間採用には2つ考えがあって、1つは今の若い民間採用には「絶対、役所の色に染まるな。お前は民間の色を持っているから採用されたんだ。絶対、役所っぽくなるな」と言っています。あともう1つは、先ほど少しお話した民間銀行出身の人です。平成16年の春に最初に民間枠で採用した職員が彼でした。

 行政経験は私の方が圧倒的に多いんですけど、民間だったら絶対破たんするとわかるような計画を見抜けなかったことを部下である彼から、厳しく追及されるわけですよ(笑)。「こんな計画は民間の銀行なら絶対通りませんよ」とか(笑)。

 そういうことを言われて、自分がいかに役所の中の狭い世界で10数年育ってきたかってことを実感したので、今の若い職員が民間採用の人と接する時に、役所の人間は民間からどう見えているのかを教えてもらう、そして、その人を通じて民間の人の考え方を理解し、さらに外の人間と付き合って欲しいと伝えています。

 私が役所に入った頃は、民間の人がどういう人かというのは、少なくとも仕事の中ではわからなかったです。しかも、「業者とは飲み食いはするな」なんて言われていました(笑)。

加藤:民間と自治体だと企業文化の違いはあると思うんですけど、民間から来て活躍する人としない人の違いは何でしょうか。

今村寛氏:民間から公務員に転職を希望する人には、安定を求めて来られる方もおられます。そういう人は、民間で少し使えなくて公務員に来るってパターンもあるので、これは公務員になっても使えないんですね。そうではなく、自分の民間で培った分野を活かして、「公務員としての仕事にチャレンジしたい」という方は割とうまくいっていると思います。

市長「地方自治体は良いことをしているが、それを伝えられていない」

加藤:ちなみに、高島市長も元々公務員ではなかったですよね。過去の今村さんのインタビューで「高島市長が来られて市政をダイナミックに変えられている。それを一番見てきた」とおっしゃっています。実際に市長が最も変えたところはどこだと感じますか。

今村寛氏:平たく言うと見せ方ですね。「同じ良いことをやっているなら、良いことをやっているってちゃんと伝えなきゃ」って市長から直接言われました。「役所ってすごく沢山良いことをしているのに、全然良いことだと伝えられていないよね」と。

 別に、羊頭狗肉でつまらないものを良く見せるみたいなことはしなくていいんだけど、「『良いこと』はちゃんと『良いこと』」って言おうよと。それは言うタイミング、言う情報の内容、あるいはポスターの作り方、フォントの使い方一つをとってもそうなんだけど、そういうのを見てもらって、「あっ!と、直感的にわかる良さを磨いて伝えるべき時に伝えよう」って。

 市長がいつも言っている『7秒ルール』というものがあるんですよ。アナウンサーのお仕事をされていた時の経験で、「人は7秒以上の話は聞かないから、7秒で説明できなかったらダメ。そのために、『短くて心に刺さる言葉』をいつも用意して磨いておけ」って。

加藤:元々アナウンサーならではですね。

今村寛氏:だから、「資料の1ページ目をお願いします」はダメなんです(笑)。面白いですよ(笑)。私は4年間市長の下で予算編成をやりましたけど、必ず年度予算を作った後に、わかりやすいタイトルを付けるんですよ。毎年タイトルを決めるために、いつも市長と10も20も言葉を作りながら、市長が会見の時にフリップで見せられるような『短くて心に刺さる言葉』を作るということをずっとやっていました(笑)。

加藤:確かに地方自治体って地味なイメージがあるんですけど、実はものすごいことをやっていると思うんですよね。わかりやすいことで言うと、水道とかの技術だと思うんですが、世界の地方自治体からしてみたら、こんなにクオリティの高い業務ができているところはほとんどない筈なんです。

 まず海外では水道水なんて飲めるところがほとんどないですし。多分、そういうことをうまく伝えることによって、もっと市民が興味を持って、「福岡市すごいな、市民としても協力したいな」と感じる人も増えてくると思うんですよね。だから、それは組織単位でも、個人単位でも、もっともっとアピールしても良いんだと思いますし、このサイトでもそれを広めていければ良いなとは思うんですよね。
※本インタビューは全5話です

2017/02/22

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