【鹿屋市 福井逸人氏:第5話】なぜ楽しく働くことができるのか

きつい仕事でも充実感を持つことができる

加藤:ちなみに、ご自身がお仕事されてきた中で一番大変だと思う仕事はどれでしょうか。

福井逸人氏:農水省の仕事が辛いですよ(笑)。何日も寝ないで仕事することもよくありますからね。関係者が多いですし、議員さんも、もちろん地元を背負っていますから。やっぱりピリッとしますけど、でも、どこか懐かしいというか(笑)。

 鳥インフルエンザが出たときは本当にしんどかったですね。通常、そういう時は処置が完了してから21日で移動制限*が解除されるんですが、その間はすごく濃密な時間ですね。辛かったと言えるのかわからないですけど、きつかったなとは感じました。
(*病気の発生農家を中心として半径3km以内の地域内では、家きん等の移動が禁止されること)

1次産業で地域活性化する夢を叶える

加藤:なるほど、そういう環境にいらした中で、今までご自身がゆかりのなかった鹿屋市でお仕事をすることにしたのは、どういった理由だったんでしょうか。

福井逸人氏:そうですね(笑)。遡ると元々、三重の田舎の生まれなんですね。もっと人気のある省庁がいっぱいある中で、1次産業で地域活性化するんだということで農水省に入った経緯があって、今回の話があった時は、まさにそれを実現する時かなという気はしました。

 ただ、農水省の仕事で一番大事な40代の時期に離れて、かつ給料も下がるんですね(笑)。休日もないし。それに、一番カワイイ盛りの子供を置いて単身で来るわけなので、冷静に考えたら損のような気もするんですけど(笑)、昔からまわりの人が「行かない」って言う方の道を選んでしまう、ひねくれた性格なので・・(笑)。でも、元々興味があった1次産業で地域おこしの旗振りをするチャンスなんて、宝くじに当たるぐらいの確率かもしれないですよね。

 そう思うと、やるだけやってみるかという感じですかね。それに、農水省も本当に放したくない優秀な人材は外に出さないですからね(笑)。

加藤:どうなんでしょう(笑)。ただ、今回のように副市長として現場で成果を出されると、その経験を活かして、農水省の中でも色々な責任が任されていくんじゃないでしょうか。

地方自治体の職員へのメッセージ

加藤:最後に、地方自治体で働く方へのメッセージをいただけますか?

福井逸人氏:若い人に伝えたいのですが、1つ目に、地方自治体で働くことの楽しさを理解して欲しいです。こんなに楽しい仕事なんてないですよ。もっと、みんなが楽しんだらいいと思います。農水省での仕事だと、個人として何かやりたいことを考えても100に1つも実現できないですよね。国が進めていくことに一部、やりたいことを盛り込むことはできたとしてもです。

 それが、市役所だとそこが現場なので、やりたいと思って死ぬ気でどんどん関係者を説得しにいくと、どうにかやれるんですよね。しかも、相手は市役所の人間の話なら、少なくとも聞く耳は持ってくれるんですよね。それに、公務員はクビがないから、仮にその自治体の首長に嫌われたってクビにならないです(笑)。こんな楽しい職場はないと思うんですけどね。

 もちろん、普段の仕事で大変なことや嫌なこともあると思いますけど、それで、つまらなそうな顔をしていたら、年を取るに連れて、どんどん誰も寄って来てくれなくなると思うんですよね。なので、私が楽しんでいるように振る舞っていれば、みんなも楽しんで仕事をして良いんだって、少しでも思ってくれるようになってくれれば嬉しいんですよね。

夏祭りで踊って場を盛り上げる福井副市長 

夏祭りで踊って場を盛り上げる福井副市長

 

加藤:なぜ福井さんは、ご自身を楽しめている状態にもっていけているんでしょう?

福井逸人氏:なんででしょうね(笑)。人を喜ばせるのが基本的には好きだと思います。経験として良かったのは、ニチレイで顧客意識を叩き込まれたことかもしれないですね。

 農水省にいても、どうしても目の前にいらっしゃる国会議員をお客さんだと思ってしまう節があるんですが、元々、国民のために国を良くしたいという、省に入った時の視点を維持できるようにしなければいけないと思っています。そう思うことができれば、辛くても充実して楽しい仕事だと改めて感じられます。

 ニチレイで言われた『顧客価値』は「もっと安くしろ!」と言ってくる人に、ただ安くするということよりも、「多少高くても、お客さんにとってこれがベストです」と提案することだと教えられて、それは今でもすごく覚えていて大事にしています。

 地方自治体の現場であるような、市民と市役所の関係で「どんなクレームを受けても、住民は神様です!」みたいな感じは、そういう顧客価値の考え方から見ると、少し違うんじゃないかと思います。

加藤:なるほど。

福井逸人氏:本当にお客さんが求めているものは何かと考えたときに、面白くてみんなが参加できるもの、元々地元にあってみんなが少しは誇りに思っているもの。みんな、そういうものが欲しいんじゃないかと思ってやっています。だから、人を喜ばせようと思ったら、お金がなくても何か小さいことからできると思うんですよね。それもワクワクしながら。

 それと、もう1つ地方自治体で働く若い方に伝えられたらと思うことは、自分のやりたいことを通したいときに、もっと論理を戦わせることが大事だと思います。すぐに諦めてしまっている人も多いんですよね。例えばやりたいことを違う部署や市役所の外の組織の誰かにダメって言われても、それが何でダメなのか把握するというところまでは戦って欲しいんです。

 例えば農水省の場合、他の省庁とケンカする時に、自分が戦って勝てなかったら、相手との論点を整理して自分の上司に相談し、その論点に沿って上司が戦いに行くってシステムなんですね。

 これは民間でも課長が話をしてダメなら、次は部長が行くとかそういう流れだと思うんですよね。だから、なんでダメなのかをもっと本音で深くまで突き詰めて行くと、相手の本当の意向も理解できて、変な人間関係のしこりも残らないし、その本質を突き詰められれば、自分がやりたいような充実した楽しい道が開けるんじゃないかと思います。そんなことを若い現場にいる皆さんに伝えられたら嬉しいです。

加藤:素晴らしいですね。実体験と実績のある福井さんのお話なので、言葉の重みを感じられました。以上でインタビューは終了となります。お忙しい中ありがとうございました。

福井逸人氏:こちらこそ、話をする中で自分の過去の考えを整理することができました。ありがとうございました。

編集後記

 福井副市長は、一見破天荒に見えるかもしれないが、実際には、とても現実的な人だと感じた。まず、自分の成すべき到達点を定める。そして、それを解決するために大きなお金を使わず、ご自身が本来持っている人としての温かみと、賢さの掛け算によって人を巻き込み、結果を作っていったのだと思う。

 地方自治体の財政状況が厳しくなっている中、鹿屋のこの事例は、小さく現実的にできる範囲から一歩を踏み出して、次第にそれを大きくすることに成功した好例だろう。

 世の中にある大きな会社やサービスも、最初は小さいスタートを切っていることがほとんどだ。今の時代は特に、物事がうまく回り始めると、今まで小さかったものであっても瞬く間に広まり、大きなうねりに変わっていくようになった。

 福井さんは、そういったものをカノヤトルネードと呼び、若い職員に対して「最初は小さい一歩でも、竜巻のように周りを巻き込むことで、やがてそれが大きな力になる」ということを言葉でも行動でも、そして結果でも伝えている。

 インタビューの後に鹿屋市役所でお仕事をされている優秀な若手職員の方と食事をさせていただいた。そういう皆さんとお話をしていると、福井さんが如何に愛されているのかがわかるのと同時に、福井さんの竜巻の起こし方を間近で見た方々が、また次のカノヤトルネードを起こしていけるのだろうと感じるのである。

※本インタビューは全5話です

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2017/02/24

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