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マイナンバー対応の"いままで"と"これから"【高倉万記子】

 怒涛のマイナンバー対応作業もまだ収束してはいないが、ここ最近の動きを振り返りたい。
 自治体のマイナンバーの関係の仕事としては、最初は担当部署を決めることだったのではないだろうか。そこから担当宛てにおびただしい量のメールが届き、その対応に追われてきたことと思う。補助金申請やデジタルPMO(社会保障・税番号制度の運用開始に向け、国・地方自治体・各データ保有機関の連携を図るため、番号制度に関する情報共有を目的としたコミュニケーションツール)を通じた入力作業で、書類をじっくり見る暇がないという嘆きもよく聞かれた。小規模自治体は職員1人あたりの事務の種類が多く、その負担も大きかったが、中核市のような規模の自治体も忙殺されていた。そして、この頃から担当部署の病気休暇や退職の話が出てきたように思う。
 個人番号や特定個人情報を扱うにあたって行う安全管理措置も、どこまでやればいいのかという戸惑いも当初よく聞いた。それは従業員のマイナンバーを扱う民間企業も同様で、地域の中小企業向けにセミナーを企画した自治体もあったようだ。
 上記の情報を扱うにあたって必要な特定個人情報保護評価については多くの団体、事務で基礎項目評価だったので、実際に事務担当でなくマイナンバーの担当部署が取りまとめて作成したところもあるのではないだろうか。取りまとめ部署においては各番号利用担当課での事務がどのようなことを行っているか、わからないという嘆きもよく聞かれた。福祉部門などマイナンバー関係の情報が来ていない部署とはマイナンバーに対する取り組みの温度差が拡大していった。その結果、後の情報連携テストで、自部署が情報連携が行う認識がないなど、同じ市や町村間で情報連携に対する意識のズレが生じた話もあった。
 全項目評価や重点項目評価だけでなく、基礎項目評価を行ったところでも何をすればいいのか、何を書けばいいのか困ったという話もよく聞いた。こうして評価書にいたっては謂わゆるコピペが横行する結果になった。全項目評価にいたっては第三者点検を行うことになり、事務局や点検する委員に戸惑いもあったようだ。
 住民に見えるところでは個人番号通知カードの送付が記憶に新しいが、不在で返送された通知カードの管理、そしてマイナンバーカードの発行事務が住民窓口にとって大きな負担となった。これほど大量にオンラインで申請を受け付けた事務が今まであっただろうか。システム上の不具合だけでなく、前年の予算編成、人員配置計画前に事務作業が固まってなく見えなかったのもあり、担当部署の36協定を超えた残業や病気休暇が全国で蔓延していたのは同じ自治体職員としてとても胸が痛い。
 そして各制度において、申請や届け出時に個人番号がわかるものを提示し本人確認をして個人番号を記入する、いわゆる個人番号の利用が始まったが、ぎりぎりになって制度ごとに取り扱いについて通知が出されたところも多かった。これより前に内閣官房の膨大なQAから求める答えの記載されたQAを探し出し、取り扱いについて随分と議論された覚えがある。昨今、申請や届け出を受け付けるときに、未だに通知カード自体が一年経っても浸透しておらず、各制度の受付担当は説明に労力を費やしていることが垣間見える。いよいよ次の確定申告でマイナンバーが必要になり、法人あての特別徴収額決定通知書にマイナンバーが掲載されることになるが、これもどれぐらいの反響があるか未知数である。まだまだ時間はかかるが役所の手続きにはマイナンバーが必要という地道な啓発の積み重ねになるのだろう。
 マイナンバーが始まる前に年金機構の情報漏洩事件があり、そして自治体でも標的型攻撃を受けた自治体があったことが判明した。マイナンバー制度がスタートしたあとに同じような情報漏洩事件があってはいけないと、自治体にセキュリティ強靭化が求められることとなった。マイナンバーの制度施行準備で忙しい自治体にさらに作業が追加されたわけだが、インターネットからの分離、事務系はLGWAN(地方公共団体を相互に接続する行政専用のネットワーク)へとか、2要素認証などという内容だが、細かい話をしていくうちに、どこまでがOKでどこまでがダメなのかという境界が不明瞭で混乱していた様が読み取れた。マイナポータルを利用するためにインターネットに繋がれるのに、自治体はインターネットから切り離すことについて整合性は担保されるのかとか、国の省庁はできているのかという疑問もよく耳にする。
 マイナンバーカードの取得率が芳しくないということで、マイナンバーカード普及のために自治体にマイナンバーカードの利用方法を考えろという話も降りてきた。マイキープラットフォームを使った図書館カードへの利用をという話や、自治体ポイントという話もでてきているが、どれぐらい自治体がこのような取り組みに乗れるかはわからないが、制度準備で余裕がない自治体にはなかなか考える余裕がないのだろうと考える。
 ところでこういった話を一般的に国民に周知しようにも、マイキーの説明はおろか、マイナンバーとマイナンバーカードの違いもわからないマスコミの記事も多く、広報の難しさを痛感させられる。
 さらに、マイナンバーカードを使ってログインするマイナポータルも利用促進のために自治体に子育てワンストップサービスなど、行政サービス側での対応が求められている。児童関係のサービスも結局対面での受付が必要だったり、各種マイナポータル以外のサービスがあり、一部のサービスのみマイナポータルに対応しても利用するには現実的ではないのではないか、という現場の声も大きい。
 マイナンバーのそもそもの目的として謳われていた国民の利便性向上、自治体の業務効率化のための情報連携については、テストが始まっている。しかしやり取りする情報は自治体の事務に対応していない項目も少なくなく、平成29年7月からの情報連携ネットワークの積極的な活用についてはあまり期待出来そうにない。ただこれは国も認識していて今後改良が行われる予定なので、そちらに期待しておきたい。ただ、これに合わせて再び自治体らはテストに追われることとなると思うので、まだまだ気が抜けそうにない。ただ、いままで多額の費用をかけて構築してきた環境を活かさない手はないだろう。
【高倉万記子氏の過去のインタビュー】
システムのスペシャリストが創出した役所の外に広がる輪
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高倉万記子氏 経歴
2000年に愛媛県の八幡浜市役所入庁。市民課を経て、2003年に基幹系システムの保守運用開発部門に異動し、国民健康保険や福祉制度業務等を担当。2013年に、愛媛県後期高齢者医療広域連合へシステム担当として派遣され、マイナンバー制度等の導入作業を行う。
 総務省自治大学校の行う情報システム領域における育成研修において、パネルディスカッションのコーディネーターを務め、自治体職員に対してマイナンバーやSNS活用の講師等を行っている。その他、自治体関連情報を配信する無料のメルマガも発行している。

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