コラム

地方議会と地方行政の関係にもスポーツマンシップを

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 昨日、4月10日、東京都庁で行われた浜渦氏の記者会見に参加した。内容については既に大手メディアを中心に報道されているが、各社の報道通り一言で言えば「浜渦氏が偽証を否定した」というところだろうか。細部についてはここでは触れないが、文末に記者会見全ての内容を音声データに残した。もし興味があれば聞いていただきたいが、私自身は今日の記者会見の裏側にちらつくテーマについてまとめてみた。

東京ガスが瑕疵担保責任を負うことが当たり前だという思い込み

 浜渦氏に対する事実解明の動きに一点だけ違和感を述べるとすれば、「東京ガス側が売主であるから、瑕疵担保責任を持つことが当たり前」という論調が世の中にあり、今日も記者からそのような質問があったことだ。一般的な不動産取引における瑕疵担保責任の話は、豊洲という特殊なケースにそのまま持ち込むべきではないとは思う。『売りたくなかった東京ガス』、『買いたかった都庁』、この関係を再度頭に入れる必要があるのではないか。

豊洲問題の判断を早急に進め、安心を醸成していくためのフェーズへ

 そんな中、私が強く感じているのは、豊洲移転の判断については、百条委員会で進めている過去の事実解明とは切り分け、早急に進めてほしいということだ。二元代表とされる都庁と都議会が早急に論点整理をした上で対話を進め、お互いの利するところではなく、都民にとっての最適な結論を早期に出すことはできないものなのだろうか。

 最近、『安全』と『安心』という議論があるが、『安心』という言葉が政策に多大な影響を及ぼすのは避けるべきではないか。やはり政策は科学的な根拠のある『安全』を元に判断し、『安心』は政策を進める政治行政に関わる者たちによって築かれていくべきものではないかと思う。

 75%前後の支持率の小池知事と127人の東京都議、そして都庁職員が、科学的に裏付けられた『安全』を根拠に、『安心』を訴える。そうすれば、都民の不安も大きく解消されていき、移転までの空白期間にかかるコストも圧縮できるのではないか。住民への説明の際には、時間が経てば経つほどにコストが膨らんでいくという財源のこともぜひ伝えて欲しい。

地方議会と地方行政にもスポーツマンシップを

 理想としては『是々非々』の議論が都庁と議会の間で行われ、最終的に決定したことに対しては、お互い協力しながら最大限にそれを推進していくことだ。たとえ、論争でいがみ合っていたとしても、それを一度リセットして、同じ方向性を向いてもらうことは夢物語なのだろうか。

 もちろん、政治家である議員の場合は『賛成反対』の意見を頻繁に切り替えていては、支持者を敵に回してしまうかもしれない。ただ、時には、自分が豊洲反対派であったにも関わらず、豊洲移転が決まってしまうようなこともあると思う。そういう場合でも、移転へ向けた動き出しとともに表出する課題をチェックし、建設的で論理的な批判により、議員としての存在価値を見出すこともできるのではないか。そういう意味では、それは単なる批判ではなく『批判的な提言』ともいえるかもしれない。繰り返しになるが、建設的で論理的なことは前提である。

 前職に私の尊敬する取締役の方がいたが、彼は創業社長に対しても自分の意見を戦わせる人だった。そして、議論の結果、創業社長の意見が通った場合でも、部下に対しては、まるで、彼が最初からその意見だったかのように振る舞い、全力でその施策を進めていた。そこには、ボクサーが勝っても負けてもリング上で抱き合うような、そういうスポーツマンシップのようなものが見え隠れする。全力で戦って、結論が出たらそこで切り替える。そうやって仕事に関わる人は純粋に尊敬できるのであるが、成果はそういうところに生まれるのだと思う。

議論の苦手な日本人?

 これは余談だが、日本人の文化は議論に人格やプライドを持ち込み過ぎてしまっている気がする。議論することを恐がり、避ける人も多い。「政治」や「宗教」の話はするな。場合によっては「野球」もダメ。ただ、本当は「話すこと」がダメなのではなく、「相手との違いを受け入れる寛容性や、違いを越えて尊重する気持ちが足りない人がいること」がダメなのだと思う。

 そのため、普段から議論に慣れていない人も多く、会社の会議などでいざ必要に迫られると、「みんなで話をして良い意見を出そう」ではなく、「議論に勝つ」ことが目的になる人もいる。しかし、それは本質的な話ではない。議論することで得られるものは、自分以外の他者の持つ深い洞察や意見であり、それらは自分の視点をより高いところに引き上げる。少なくとも会議の相手は敵ではない。そう考えたら、論理的に自分を言い負かせる相手は、むしろ違う視点を持つ貴重な存在ともいえる。やはり、これからの地方議会と地方行政は議論を恐れずに、より胸襟を開いて対話を重ねていけると良いのではないだろうか。

 ちなみに、前職の時にロジカルシンキングの研修を受けたことがあるが、その時の講師の方が「奥さんに『ロジカルシンキング』を使うと家庭が崩壊します」と笑い話をしていたことを覚えている。私は「理屈っぽい」と疎まれることも多いのではあるが、まずはそれ以前に家庭を持てるような「ちゃんとした人間になれたら」と思うのである。

 

※2017年4月10日浜渦氏の記者会見 音声データ

 

記=加藤年紀

株式会社ホルグ代表取締役社長。株式会社ネクスト(東証一部:2120 ※現「株式会社LIFULL」)に2007年4月に新卒入社し、営業グループマネージャー、WEBプロモーションにおけるグループマネージャーなどを経て、2012年5月に同社インドネシア子会社『PT.LIFULL MEDIA INDONESIA』の最高執行責任者(COO)/取締役として出向。子会社の立ち上げを行い、以降4年半ジャカルタに駐在。2016年9月に同社退社。

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