コラム

スタートアップ部長が行く! 第2話「狭くて敷居が低いまち・福岡」【今村寛】

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 企業誘致やスタートアップ支援をやっていて、福岡のまちの魅力としてよく耳にするのが「敷居の低さ」。

 人口155万人を擁する国内第五の都市としての地位を確立しながら、東京や大阪といった大都市に比べるとどこか垢ぬけない、どちらかというとアジアの地方都市の雰囲気を醸し出す福岡のまちは、一定のエリアに都市機能が集積し、職住近接したコンパクトなまちであることも手伝って、街を歩いていると誰か知り合いに遭遇する確率が高い「広いようで狭いまち」である。
 知り合いの知り合いが知り合いである確率が高い、あるイベントでお会いした方と全然毛色の違う別の場で再会する、なんてこともよくある話。

 この「コミュニティの小ささ」は、ややもすると閉鎖的なムラ社会につながりムラの外から来た異端児を排除しがちだが、転出入による人口の入れ替わりが激しい割にはコミュニティがしっかりしていて顔の見える関係が残っている福岡の良さは、その「敷居の低さ」にある。
 古来、大陸との交流を結ぶ玄関口として2000年以上の間ヒト、モノ、カネの往来が絶えることのなかった歴史的な環境がそうさせたのであろうか、福岡に暮らす人々の気質は往々にして開放的で人懐っこく「敷居が低い」というのが私の印象である。

 ビジネスを呼び込むにはこの「敷居の低さ」は売りになる。
「敷居が低い」ことで、地元の人間でなくても、ツテがなくてもビジネス参入しやすいというのはこの界隈でよく耳にするし、東京のような大都市とは異なりコミュニティが小さいので、ビジネスに関連するキー人材がどこで誰と何をしているのかという情報は比較的得やすいし、つながること、直接会うこともそう難しくはない。
 首都圏等の大都市に比べ家賃や人件費などのビジネスコストが安いこと、食べ物がおいしい、職住が近接し通勤時間が短い、余暇の過ごし方が充実しているなどQOLが高いこと、など福岡でのビジネスをお勧めするうえでの誘い文句はたくさんあるが、このくらいの規模の都市で「コミュニティの小ささ」「敷居の低さ」を売りにし、それが評価されている都市が他にあるだろうか。

 私自身は、社会人1年目から20数年、福岡でしか働いたことがないので、福岡以外のまちがどうなのか、実際のところはよくわからない。
 福岡で日々普通に仕事をしていると、組織や個人の関係性でぎくしゃくすることも、閉鎖的な空気を感じることも当然あり、「敷居が低い」という評価は本当だろうかと思うときもあるが、福岡を外から眺め、中に入ってきた人たちがそういうのだからきっとそうなのだろう。
 自分では気づかない自分のまちの価値、強みを教えてもらえるこの職場で、日々いい経験をさせてもらっていると思う。

 そういった環境に拍車をかけ、最近高まっているのが「熱量」である。
 バブル景気が終わった後も「日本で一番元気な街」と称されていた福岡。
その後いわゆる「失われた10年」が過ぎ、全国的に景気が低迷するなかで福岡の勢いも一時陰りを見せていたが、ここ数年の景気の持ち直しに連動してビジネスが再び活況を呈し、「福岡が熱い」と言われるようになってきた。
 「スタートアップ都市・福岡」の旗印を掲げ、「グローバル創業・雇用創出特区」として国家戦略特区の指定を受け、創業の支援と雇用の創出のための新たなチャレンジを後押しするムーブメントづくりと環境整備を着々と進めてきた福岡市に今、熱い視線が注がれ、「狭くて敷居の低いコミュニティ」の中でその熱気が満ちあふれている。
 調子がいいとのぼせ上がる福岡人の気質も手伝い、多くの方々から「福岡が熱い」と言われることで自然とプラス思考のムードが盛り上がっているということは、まちの成長にとって必要なチャレンジの機運を高めることにもつながり、福岡のまちにとって大変幸せなことであると思う。

 高度経済成長期に福岡市が、重厚長大産業による経済振興を果たすことができなかったのは、市内に一級河川がなく大量の工業用水を確保供給することが難しかったことが主な要因である。
 そのおかげで、福岡市はその後、支店経済都市として成長し、九州の経済・流通の要衝としての地位を得たことで産業構造の変化に耐えることができた。
 水がないことは都市開発抑制の発想にもつながり、人口増加の局面にあっても一定の標高以上の開発を制限し続けたことで辺縁部での無秩序な都市化を防ぎ、計画的なコンパクトシティが形成された。
 東京から1,000km以上離れているおかげで、首都圏の持つ巨大な経済圏に取り込まれずに、アジアを背後圏とした独自の経済圏を持つことができた。
 福岡のまちの今があるのは、常に地勢的要因や外部環境を強みに変えることができたから。
 その福岡が今、地勢的要因や外部環境だけでなく、古くからあるまちの文化、風土、気質をうまく活かし、新たなビジネスを呼び込み都市の活力の源にしようとしているのである。

 まちづくりは、まちの歴史、文化、個性とともにある。
人が一人一人個性があるように、まちもまたそれぞれに個性があって、同じまちはひとつもない。

だからまちづくりは面白い。

そんなまちづくりに関わらせてもらえる自分は本当に幸せ者である。

【今村寛氏の過去のインタビュー】
全国から依頼殺到!土日返上で自治体のフトコロ事情の現実を広める先駆者 福岡市役所 今村寛氏

【今村寛氏の経歴】

京都大学を卒業後、1991年より福岡市役所にて勤務。2016年3月まで、財政調整課(*1)で課長を4年間務め、2016年4月より創業・立地推進部長となる。

財政調整課長時代に培った経験から、地方自治体の財政状況をわかりやすく説明する「財政出前講座」と、財政シミュレーションゲーム「SIM2030(*2)」の開催依頼を受け、全国各地で行っている。

現在は経済観光文化局の創業・立地推進部長として、福岡市における企業誘致や民間の新規事業創出に貢献している。また、福岡市にてオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を運営し、福岡市と他自治体、民間等のつながりを積極的に生み出している。

*1 財政調整課とは
地方自治体の金庫番。多くの自治体では「財政課」。各事業部と調整し、予算の配分・編成・執行管理、財政計画・調査などを行い、地方自治体の花形の職種とされる。地方自治体の予算編成の時期には相当な激務をこなす。

*2 SIM2030とは
地方自治体の持っているお金をどのように配分していくかということを体験するゲーム。このゲームの中で、社会保障費の高騰や税収減に向き合う地方自治体が、その限られたお金を運営する上で、どの事業を止めてコストを捻出するのか、それとも借金をするべきなのかなどを判断していく。

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