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地方自治体で働く若者たちへ 第5回:共感力【後藤好邦】

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 連載コラム「地方自治体で働く若者たちへ」も、残すところあと2回となった。前半戦は「仕事に対する考え方」をテーマに話を進めてきたが、これに対し、後半戦は「仕事上で必要なスキル(実務能力)」について取り上げることにした。その2回目となる今回は「共感力」をテーマにお話ししたい。

 前回お話しした「情報収集力」を身に付けることで、たくさんの貴重な情報を得ることができる。そして、その情報を活用することで良いアイデアが生み出される。しかし、そのアイデアが、どんなに素晴らしいものであっても、上司や部下、利害関係者や市民など、周囲の人たちから共感してもらわなければ形にすることはできない。その点では、想いを形にするためには共感力、つまり、相手に共感を得られる力や共感を伝播する力が必要である。それでは、この共感力は、どのようなことで身に付くのだろうか。今回は共感を得られる力に力点をおいてお話ししたい。

 私は共感力の源は「信頼」だと感じている。それは、自分が伝えていることに共感してもらうためには、共感を得たい人たちから信頼してもらうことが大切だからである。また、仕事においては、組織から信頼されることも重要だろう。当然のことながら信頼を得るためには、どのようなことに対しても、まずは真摯に対応することが必須である。ただ、これに加えて、「自分ができ、人がやらない面倒なことをする」ことで、更に、その信頼は増すことができる。そのことを、私は仕事ではなく、東北まちづくりオフサイトミーテイング(以下、「東北OM」)というオフサイトの活動で学ぶことができた。

 東北OMとは、2009年に仲間とともに立ち上げた自治体職員を中心としたネットワークである。当初、28名のメンバーで始めた活動も、8年経った今ではメンバー数が800名を越えるまでになった。このような成長を遂げることができた背景には、いくつかの要因が考えられるが、その1つに、私がリーダーとして実践したある行動があった。その行動とは、イベント参加者に対するお礼メールの送信である。東北OMでは、数ヶ月に1度の割合で勉強会などのイベントを開催しているが、発足当初、私は全てのイベント参加者にお礼のメールを送っていた。それも、翌日の朝までに送信していたのである。

 当時の参加者が50名程度だったからできたことでもあるが、それでも打ち上げ終了後、自宅に帰ってからの作業だったため、活動開始は深夜0時と夜を徹してものだった。幸いなことに私自身はメール作成を苦にしない性格である。そのため、この行動を何気ないことだと思っていた。しかし、私以外の人、特にメールを受け取った方々にとっては、深夜にも関わらず、一人ひとりに異なる内容のメールを送ることが非常に手の込んだものだと感じていただいたようで、この行動が私自身への信頼に繋がり、ひいては東北OMへの共感につながったと感じている。

 なぜ、このような行動が信頼へと繋がるのか。その一つの答えを導き出した経験を私はしたことがある。それは小布施町立図書館「まちとしょテラソ」の初代館長で、図書館プロデューサーの花井裕一郎さんの講演をお聞きした時のことだった。その時、「まちとしょテラソ」の魅力について質問を受けた花井さんは「まちとしょテラソの魅力はおもてなしがいき届いているところだ。何度も何度も住民ワークショップを行なったことで、住民の想いが施設の隅々にまで溢れている。何度も同じようなワークショップを繰り返すことは非常に面倒なことだったが、おもてなしとは面倒くさいことの繰り返しから生まれるものだ」と答えた。

 その時、私はハッと「面倒なことを繰り返すことで、周りの人からの共感を得られるのではないか。自分にとっては、それがお礼のメールだったに違いない」と思うようになった。それ以来、私は共感力を身に付けるためには、「自分ができ、人がやらない面倒なこと」を実践し、まずは「信頼」を得ることに努めるよう心掛けている。このように、自分自身が取り組むことができ、人がやらない面倒くさいことが何かをまずは考え、実践してみてはどうだろか。きっと、そのような行動が周りからの信頼に繋がり、必然的に共感力アップへと繋がっていくはずだ。

 また、上司からの「信頼」を得るための方法として、ボスマネジメントも重要である。なお、この言葉は「官僚に学ぶ仕事術」の著者としても有名な陸前高田市の元副市長・久保田崇さんから教えていただいたものである。仕事上、自分が考えた政策を実現していくためには、まず上司に納得してもらう必要がある。その点では、上司からの信頼を得るための共感力を身に付けることが、仕事上で、自分がやりたいことを実現していくうえで最も重要なことかもしれない。そう考えると、上司と上手に付き合うためのボスマネジメント能力を身に付けることが、すなわち共感力アップに直結するといえる。

 人は一人ひとり性格も違えば、趣味や趣向も異なっている。当然のことながら、仕える上司も同様である。そのため、上司により接し方を変えることで共感を得られる可能性も高くなる。なお、前述した久保田さんは「官僚に学ぶ仕事術」のなかで、「私が上司と付き合う上で気を付けていることは、上司を一人の人間として、よく観察し、分析しておくこと」としたうえで、上司の性格や考え方などを考慮しながら、資料づくりなどを行なうことで上司の理解も深まり、政策決定までのプロセスも早くなることを説いている。このように、上司からの信頼を得るための方法としてだけでなく、組織内での合意形成を迅速に行う方法としてもボスマネジメントは非常に重要なことだといえる。

 冒頭でお話ししたように、共感力には、共感を得られる力とともに、共感を伝播する力も必要である。この点については、プレゼン能力やファシリテーション能力といった自分の考えていることを伝える能力や傾聴、あるいは意見を集約するための能力を身に付ける必要がある。しかし、これらは、特別な訓練や長年の職務経験によって得られるスキルでもある。そのため、「共感力」を高めるの第一歩として、まずは周囲の人から信頼される人材になるよう努めることが若手職員としては大切だと私自身は考えている。

【後藤好邦氏の経歴】

1994年に、山形市役所にて勤務開始。納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課、そして現在では再度企画調整課に戻り、係長として交通政策を担当している。自治体職員が横のつながりを持つ機会を生み出すために、2009年に「東北まちづくりオフサイトミーティング」を3名で立ち上げ、会員を900名になるまで拡大させる。現在、雑誌『月刊ガバナンス』で「『後藤式』知域に飛び出す公務員ライフ」を執筆している。

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