コラム

地方自治体で働く若者たちへ 第3回:真の課題を探る問題意識を持とう【後藤好邦】

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 私にとって、2011年は人生の中でも忘れられない年の1つである。それは2つの大きな出来事があったからだ。

 その1つが東日本大震災。被災地に比べればごく短い期間だが避難所業務を経験することができ、また、東北まちづくりオフサイトミーティングの活動などを通して、プライベート活動として復興支援に取り組むことができた。これらの経験から私は非常時における自治体職員の果たすべき役割の重要性をあらためて感じることができたのである。そして、もう1つの出来事が東京財団週末学校(以下、「週末学校」)への参加だった。週末学校では「地域が抱えている課題とは何か。その課題に対して自治体職員はどう対応していくべきか」について、政策提言をまとめていくプロセスの中で徹底的に考えさせられた。この活動により、私は問題意識に対する考え方が大きく変わったのである。

 地方創生時代のなか、自治体職員には地域を元気にするため、その地域が抱える課題の解決に向けた新たな施策や事業を考え実行していくことが求められている。しかし、こうした活動を実践していくためには、常に「地域の課題」を模索する問題意識を持つことが重要である。そこで、第3回目となる今回は、この「問題意識」について、私なりの考え方をお話しさせていただくことにする。

 人口減少、少子高齢化、過疎化、地球温暖化など、現在、地方自治体が取り組むべき課題として挙げられている項目は実に多い。しかし、これらのことは本当に解決すべき課題なのだろうか。実は、それは課題ではなく単なる事象であり、それらの事象が引き起こす住民生活に影響を与えていることが本当の意味での課題なのではないだろうか。そして、この「真の課題」を適切に把握するからこそ、実効性ある政策を実施することができるのではないだろうか。この一連の思考プロセスを、私は週末学校において徹底的に叩き込まれた。

 例えば人口減少を例にすると、本当に人口が減ることが地域にとって大きなマイナスとなるのだろうか。人が少なければ少ないで、その人口規模に合った公共サービスのあり方を考えれば、もしかしたら現状よりも質の高い公共サービスを達成できるかもしれない。もしそうだとするならば人口を増加するために公費を投入するよりも、人口減少社会の中で有効性の高い事業を優先して実施していく方が費用対効果としては格段に高いといえる。そう考えると、人口減少は単なる事象に過ぎず、人口が減少することによって引き起こされるマイナスの影響こそが真の課題となる。そのため、単に人口を増やすための政策が課題解決のための有益な施策ではなく、人口減少が地域に与えるマイナスの影響を考え、その課題を解決するための方策として人口増加や人口減少を抑制するための施策を考えることが重要なのである。

 こうした観点から、自治体職員にとって必要な問題意識とは、「地域にとっての『真の課題』を把握しようとする意識」といえるのではないだろうか。前述した週末学校では、この「真の課題」を把握するための方法として、自分自身の心の中で、「なぜ?」を何度も問い直すことの重要性を教わった。つまり、「なぜ人口減少が問題なのか」という問いから始まり、人口減少が引き起こす問題点や人口減少を引き起こしている要因などについて、「なぜ」を繰り返し、心の中で反問し続けることで徐々に「真の課題」が見えてくるということである。

 ここで、この反問を繰り返すことで真の課題を把握することができた私自身の経験をご紹介する。それは都市政策課で開発許可の仕事をしている時だった。当時、私の担当業務は開発行為に関する相談を受けることや開発行為の規制に対する許可を下すものだった。普通に考えれば、根拠法令である都市計画法の趣旨に従い「無秩序な開発行為により必要以上のインフラ整備が行われ、無駄な税金が使われることを未然に防止するため、都市計画法に基づき開発行為を規制する」ことが仕事に対する考え方となるだろう。しかし、私は都市計画法の規制に関して疑問を感じていたこともあり、心の中で反問してみることにした。

 「なぜ市街化調整区域の規制が必要なのだろうか」からはじまり、いろいろな問いを設定し自分自身の心の中で反問していった。その結果導き出されたものが以下の見解である。都市計画法策定時(昭和45年)と異なり、昨今は非成長時代のなかで無秩序な乱開発が少なくなっている一方で、市街化調整区域、特に中山間地域の過疎化が進展し、集落を維持していくことが困難になりつつある地域が増えている。しかし、この都市計画法の縛りがあるため、移住希望者や、その地域で新たに生業を始めたい人がいても、土地や建物を有効活用することができない場合が多い。そのことが、地域内の人口減少を助長するとともに、住民が集落内で十分な公共サービスを受けることができないなど、集落機能を維持することの妨げとなっている。これこそが真の課題なのではないだろうか。

 このように考えるなかで、都市計画法の趣旨を踏まえつつ、規制緩和のための許可基準の見直しを行うことが、私たち開発指導の担当職員に与えられた使命だと考えるようになった。これより規制緩和の必要性を事あるごとに上司に伝え、徐々にその気運は高まっていったが、残念ながら私の在籍時には大きな見直しを起こすことはできなかった。しかし、私と同じ問題意識を持ち、真の課題を把握していた後輩が、私の想いを引き継ぎ、現在、規制緩和を実現してくれている。

 このように、今まで重要視されてたきたことが違う角度から見てみると町の発展を阻害していることや、足かせになっていることは往々にしてある。だからこそ、「真の課題は何か」を考える問題意識が大切なのである。皆さんも今一度自分の仕事をふり返って欲しい。そうすると、いま課題だと感じていることが実は課題ではなく単なる事象に過ぎないことや地域の実態と乖離していることなどが見えてくるはずだ。これを機に、是非自らに「なぜ」を問い直し、「真の課題」探しを始めてみてはどうだろうか。

【後藤好邦氏の経歴】

1994年に、山形市役所にて勤務開始。納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課、そして現在では再度企画調整課に戻り、係長として交通政策を担当している。自治体職員が横のつながりを持つ機会を生み出すために、2009年に「東北まちづくりオフサイトミーティング」を3名で立ち上げ、会員を900名になるまで拡大させる。現在、雑誌『月刊ガバナンス』で「『後藤式』知域に飛び出す公務員ライフ」を執筆している。

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